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  私の中にある空ろ。 


彼に会ったのは私の方が先だったのに。
彼が彼女に会う前に想いを告げていれば良かった。
そんな、埒もない事考えたりもした。
だって。
思いもしなかった。
彼が、誰かを好きになる。なんて。
彼の隣が自分以外の誰かのモノになるなんて。
自分ですら立てなくなった彼の隣という場所に、誰かが立つこ とを彼が許す、なんて。
私は。
私は、彼女がいなくなって彼の隣に再び立てるようになった。
けれど。
彼女を失った彼の隣に立って、気がついた。
もう駄目なのだと。
彼の心は根こそぎ彼女に奪われたのだと。
私が隣に立っていても、彼の瞳も想いも全て彼女に向かってる 。
彼女を失った彼の隣に立つ事を許されたのは「私」ではなくて 。
彼女を失った彼はもう、誰が隣に立っていても関係ないのだと 。


確かに彼女は綺麗で魅力的だった。
けれど、一緒にいた時間は極短いものだったのに。
彼女の何がこうも彼を捉えて離さないのか、いなくなってしま ってからも彼の心の全てを向けられるほど何が良かったの、と 。
誰もが見惚れるほどの美人というわけではなかった彼女を憎ん だりも、した。
側にいるのは私なのに。
それなのに。彼は私を見もしない。隣にいる女を通して以前同 じ場所に立っていた「彼女」を見る事すらしなかった。
ただひたすら一途に彼女を想って。
側にいればいつかは彼が私を見てくれるようになるんじゃない か、なんて浅ましい考え方をする自分がひどく汚いモノに思え て大嫌いだった。そして私にそんな思いをさせる彼を傷つけた くなって。
「彼女と会う前に私とつきあってたとして、彼女と会ったらど うなってたと思う?」
なんて。
なんて醜い言葉を投げつけたんだろう。
彼は一瞬キョトンとして何でそんなこと言われたのかわからな い、というカオをした。
彼の鈍さに今は感謝する。
答えを再度促した私に彼は何でそんなことを聞くんだ、想像し た事もない、意味ないだろうと散々ひどい言葉を言い連ねて。
(あの時は彼の鈍さに腹が立った)
それでも答えを催促する私に真面目に考え込んで、悪いけど。 と言った。
「悪いけど、それでも彼女を好きになった」
と。
心臓を貫かれるような痛みだった。
だって、先に出会ってた私は先に想いを告げていても彼女に彼 を奪われてしまうのだ。
先に想いを告げていたら、なんて甘い幻想に浸る事も否定され たのだから。
怪訝そうな彼の表情に私は必死に言葉を探した。
彼は色恋関係の話が続くと身構えてる。当然だ。そういう話を 振ったのは私だ。
彼女のどこがそんなにいいの。
彼女のどこにそんなに惹かれたの。
どうすれば彼女のように想ってもらえるの。
聞きたい事はたくさんあって。
けれど、彼は私が彼を想ってるとは知らないのだから。
不自然ではないネタを。
焦って言葉が空回りする。言いたい事がありすぎて、まとまら なくて。何から聞けば、何を、どうすれば私は彼女のように想 ってもらえるのか。どうしたって彼女のようには想ってもらえ ないと宣告されたばかりなのに?
「彼女は何」
咄嗟に出た言葉だった。
彼にとって彼女は何なのか。
「・・・花」
目線を彷徨わせたり、髪の毛をかきあげたりと落ち着かない仕 草で間を取ったとは思えないほどぶっきらぼうに、掠れた声で 。たった一言呟かれた「答え」は。
今まで一度も聞いた事がない、声だった。揺るがない口調だっ た。
心から。
心の底から彼女を想う。想ってる。心の全てを捧げた想いを声 にしたらこんな風なんだろうと思わずにいられない慈しみと愛 と優しさに満ちた声だった。
その時初めて私は私の中に空ろがあるのを知った。
「花」
彼女は花のように綺麗。
彼女は花のような香を纏っていた。
彼女は花のような笑顔で人を魅了した。
彼女は確かに花。
大輪の花ではなくて。
誰かに摘まれるのを待つ花でもなくて。
誰かの手がなければ萎れてしまうだけの花でもなくて。
人目がない路地裏でも咲いて、誰かの目を楽しませる花。
優しい香で誰かを和ませる、花。
誰かの手がなくても自力で咲く花。
その誰かが、彼。
あの時私は酷く動揺していたのだと思う。
足元が崩れ去るような、世界にたった一人きりのようなそんな 不安定な精神状態だったのだと、そう思う。
確かに彼女は花。
踏みつけられて萎れても、再び咲き誇る強くしなやかな、花。
でも。
彼女だって私と同じ。
同じ人間なのだ。天使でもなければ、聖母でもない。普通の女 の子。
人目のない路地裏で咲いていた彼女を見つけたのが彼。
だから彼女は花。
綺麗に咲いて彼の目をひく花。
優しい香で彼を和ませる花。
ふわりと咲いて彼を魅了した花。
誰の手もなくて萎れてしまっても、彼に見つけられて咲いた花 。
彼の力を借りて咲いた花。
彼の為だけに咲いた、彼女。
彼女の中にあった空ろを彼が埋めたから、彼女は彼を魅了する 花になった。
なら。
私も、私の中の空ろを埋めよう。
私の中の空ろを埋めて咲き誇る花になろう。
そのために私の中の空ろを埋める出会いを探しに行こう。


そうよ、だって一人で咲いてるだけじゃもったいないわ


そう言って彼女が花のように笑ってくれた気がした。








読み返すと暗い、ね・・? と 作者の智里は言っていました


2009 水無


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以下(↓)は わたしの独り言です。

クラウド←ティファというお話でした。
クラウド←→エアリスかクラウドの一方通行かは 謎のままw

読み返すと暗い、ね・・? と、書き手さんはいっていたのですが

ティファの中でコレくらいの迷いや葛藤や苦しみはあっていいとわたしは思います

苦しくてもつらくても迷っても、そこから立ち上がれる 歩き出せるような
しなやかなまっすぐさがティファにはあると思っているのです
負の感情を抱く時があっても、それに捕らわれてしまわない
しなやかで綺麗なそんなティファが かわいいです

2009 水無


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